入隊して一ヶ月も過ぎるころ、
食堂内では女性自衛官を見かけるのだが、
駐屯地内では全然見かけないことに気がついた。
なにせ横須賀の駐屯地は広い。
海上自衛隊と少年工科学校も一緒になっているのだ。
話によると女性自衛官はWAC(ワック) というらしい。
定かではないし、なんの略語なのか検索する気にもならないが。
後日、といっても1年以上自衛隊で生活した頃に、
他の教育大隊にいた同期の人間から
「おれの同期は女性自衛官にもてていて、上官の女性自衛官が毎日そいつの部屋に通っていた」
ということを聞いた。
そいつの部屋と言っても、男だらけの相部屋だ。
女性の上官が目的の「かっこいい」男を呼び出したりしていたらしい。
うらやましい・・・とは思わなかった。
こんなところまできて、普通の人と同じ生活を送るのは、なんだか
「もったいない」と思った。
男だけの特殊な世界、死ぬこともある職業。
そこに俗人の生活はいらなかった。
ある日、食堂の前で何か俺はやっていた。
なんだったか思い出そうとしてみるが、思い出せない。
ひとりで食堂に行っていた。
班長の命令で、なんかやっていて、昼食が遅くなったのだ。
ふと、食堂の前で突撃小銃をもった人間にぶつかりそうになった。
銃を落としそうになったその人は、ぶかぶかの戦闘服で、
ヘルメットが斜めにずるりと落ちた。
女性だった。
おそらく自分と同じ新隊員だった。
へへへ、とその娘はにっこり笑った。
「あ」っと気づく間もなく、その人の後ろから班長らしき(こちらも女性)が呼ぶ声がする。
すると銃を両手に抱え、その娘は走り出した。愛想笑いのような、一瞬の笑いをこちらに向け。
それっきり、2年間、自衛隊の中で女性には会っていない。
40を過ぎた怪物のような女性には、駐屯地内で幾度も会ったのだが。