の母の声なのである


Updated By : March 15, 2018 3:36:15 PM JST

の母の声なのである

ぐ山奥《やまおく》の現場へ叩《たた》き込んで、保《ほ》安帽《あんぼう》かぶらして測量の棒もたせても、役に立つと思いますよ。なあにスタイルまで同じなんだから」
 そして驚いたことに山本正二郎は本当に感謝されたのである。使ってみたら気のいい子で、いそいそと働き、仲間うちからも評判いいというのであった。
 とにかく、五月さんと一緒《いっしょ》に花吹雪の中を歩けた! 今日のことは一生忘れまいぞ、と太郎は感激《かんげき》したのである。
 ところが、感激は二日と保《も》たなかった。
 今日、太郎は陸上の練習の時、小川次男に呼びとめられたのである
「五月さんとこへ行ったんだって?」
 小川は太郎を見下ろすようにして言った。小川は百八十糎《センチ》も身長がある。
「行きました」
「実は、ちょっと弱ったことがある」
「何です」
「C組の祖父江《そふえ》正《ただし》って知ってるだろう」
「口をきいたことはないけど、顔は知ってるな」
「あいつが、五月のことについて悩《なや》んでるんだ」
「へえ」
 何をひとの代りに悩むのだろう、と太郎はさっぱりわからなかった。
「五月さんは、進学をやめるそうだよ」
「そう言ってました」
 せっかく、自分にだけ身上相談をしてくれたかと思ったのに、と太郎はちょっとがっかりした。
「祖父江はそのことについて悩んでる」
「へえ」
「何とかして、自分の力で、彼女《かのじょ》も進学させる方法はないかと考えてる」
「馬券でも買うのかな」
「ばか」
「すみません」
 太郎はそこでやっと、事の重大さに気がついたのだった。
 太郎は、今改めて、インドの三面神像を見つめる。五月さんは祖父江には何と言ったのだろう。五月さんは、祖父江のそういう気持を高く評価しているのだろうか。自分は五月さんから身の上話をされた時、祖父江のようには全く反応《はんのう》しなかった。「大変だなあ、五月さん、偉《えら》いなあ」と思っただけだった。自分はひどく幼《よう》稚《ち》なのだろうか。
 太郎が瞑想《めいそう》を破られたのは、その時、下に聞き覚えのある声がしたからだった。それは女の声だった。L社の岡《おか》谷《や》さんは帰ってしまったらしい。中学も同じなら、高校も同じところにふり当てられた黒谷久《くろたにひさ》男《お》の母の声なのである。
「ごめんなさい、山本さん、こんな夜におじゃまして」
 黒谷のおふくろのいい点は、太郎の母のことを、「奥《おく》さま、奥さま」などと言わないからである。名なしの権《ごん》兵衛《べえ》じゃあるまいし、ちゃんと名前を呼んだらいいのだ。
「どうなさったの?」
 信子が客を通しながら聞いている。
「実はね。身上相談に上ったの」
 何だ、あっちもこっちも身上相談じゃないか、と太郎は聞き耳をたてた。
「実はね、主人の会社の金沢支店の支店長さんが、一週間ほど前に、お酒飲んで酔《よ》っ払《ぱら》い運転して、電柱に頭ぶつけて死んだのよ」
「まあ」

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Author : brandstory | 3/15/18 3:36 PM | Public
Tags : Music , Lifestyle
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